Vol.23 「前面道路の水道管は利用可能か」までの調査を怠ったことによるトラブル
行政庁の苦情相談において、水道施設に関し「前面道路:配管あり」と重要事項説明を受けたが、「配管が私設管で、所有者に接続を断られた」とか、「口径(容量)不足から接続できなかった」などのトラブルがみられます。供給処理施設の調査では、配管が実際に利用可能かまでの調査の手を抜いてはならないことに留意が必要です。
トラブル事例から考えよう
「公営水道・前面道路:配管あり」と重説をしたが、配管は私設管でその所有者に接続を断られた
【平成29年度の紛争事例から RETIO112-49】
経緯
(1)本件土地の売買において、媒介業者は買主に、直ちに利用可能な施設として「公営水道」、配管・供給等の状況として「前面道路:配管あり」と重要事項説明をして媒介を行った。
(2)しかし、買主が建築工事を進めるなかで、前面道路に埋設された水道管の所有が私有であることが判明。また、私設管への接続を所有者から断られたため、買主は行政庁へ苦情を申し立てた。
(3)媒介業者は誤った説明の事実を認め、その後、公道に埋設されている公設管からの引き込み費用(解決金)を支払うことで買主と合意をしたことから、買主は行政庁への苦情申立てを取り下げた。
(4)行政庁は今後再発することがないよう、業者を口頭指導とした。
01配管調査は「利用可能か」までの調査が必要
取引不動産が、水道・ガス等の供給を受けることができない場合、買主は、供給が可能である見通しや、供給を受けるための整備に必要な費用等を考慮したうえで、契約の判断を行う必要があります。
そこで宅建業法は、重要事項説明の供給処理施設の説明に関し、直ちに利用可能な施設について説明を求め、施設がない場合は「なし」と表示して、その整備の見通しや整備に必要な費用等を説明することを義務づけています。
しかし、行政庁の苦情相談において、「前面道路:配管あり」と重要事項説明があったが、当該配管が「私設管で所有者に接続を断られた。老朽化・口径(容量)不足であった」等から利用ができずトラブルになり、別途必要になった水道管の敷設費用を宅建業者が負担することで解決を図ったという例がみられます。
供給処理施設の調査は、前面道路に配管があるかの確認まででは足りず、「利用が可能」というところまで、手を抜かず確認をする必要があることに留意が必要です。
02道路配管の調査と重要事項説明
(1)配管の所有者・口径の確認
前面道路の配管の所有者(公設・私設)について確認し、私設管であった場合には、その所有者・使用者について確認をします。また、配管口径の調査を行い、水道事業者等に引き込みが可能であることの確認を行います。
(2)私設管所有者・使用者の確認
前面道路配管が私設管で、口径(容量)的にも接続が可能な場合は、その所有者・使用者に、当該配管よりの引き込みについて、了解等が得られるかについて確認をします。了解等が得られる場合は、設備の修繕・維持等の費用負担について確認を行い、重要事項説明においてその旨の説明をします。
(3)道路配管に接続できない場合
配管の容量不足・私設管所有者の了解が得られない等により、道路の配管に接続できない場合は、別途利用が可能な水道管からの引き込み費用や道路所有者に配管埋設工事の了解が得られること等の調査・確認を行い、重要事項説明においてその旨の説明をします。
03改正民法とライフラインの設備設置・使用権
令和5年4月施行の改正民法232条の2において、他の土地(私道等)に設備を設置しなければ、あるいは、他人の所有設備(私設管等)を使用しなければ、水道、電気、ガス等のライフラインを利用することができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置、あるいは、他人の所有設備を使用する権利を有することが明文化されました。
しかし、この設備設置・使用権の権利行使にあたっては、「①設備の設置・使用の場所・方法は、他の土地・他人の設備のために損害が最も少ないものに限定されること、②その権利行使を拒まれた場合は、自力執行は禁止されているため、裁判にて設備設置権・使用権の確認の訴え等を提起し、判決を得る必要があること、③他の土地・設備等の所有者とのトラブルは、取引後の関係にも悪影響を及ぼすこと」から実務上は、設備設置・使用権があるとしても、今までと同様、事前に土地・設備所有者に、設置等に関する確認・了解等を得て、取引を行うことが重要と思われます。
【改正民法(令和5年4月1日施行)】 =ライフラインの設備の設置・使用権=
第213条の2 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第1項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。
2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第1項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。
4 第1項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第209条第1項ただし書及び第2項から第4項までの規定を準用する。
5 第1項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第209条第4項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、1年ごとにその償金を支払うことができる。
6 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
7 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。
04設備設置権等と償金・費用負担
改正民法232条の2第5~7項において、私道への配管の設置工事・私設管への接続工事に際し、私道・私設管の所有者に、損害が生じた場合には償金の支払いが、また、私設管の接続については、その利益を受ける割合に応じて設備の修繕・維持等の負担が必要であることが明文化されました。
なお、私道への配管設置に際し、私道所有者よりいわゆる承諾料を求められても応じる義務はないと解されています。
【参考】 法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」
一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席研究員
不動産鑑定士
中戸 康文
一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/