Vol.26 マンション管理規約等により、 賃借店舗を借主が目的使用できないトラブル


マンション店舗の賃貸借契約を締結した借主が、管理規約等により内装工事の承諾を管理組合から得られず、営業ができないため退去し、それまでの費用が損害となってしまうトラブルが見られます。媒介実務においては、借主の目的使用が管理組合の承諾を得られることの確認を、確実に行っておく必要があります。

トラブル事例から考えよう

〈事例1〉マンションの管理規約等で、焼肉店の営業が禁止されていることを、媒介業者・貸主は借主に説明しなかった
【東京地判 令3・8・25】

経緯

(1) 管理規約・使用細則で、おびただしい煙を発生する業種(中華料理店、焼肉店、焼鳥店等)の使用は禁止とされているマンションの店舗建物について、媒介業者・貸主は、「隣の店舗での焼鳥店出店は管理組合に認められなかったが、焼肉店は煙が少ないから賃貸可能であろう」と考え、焼肉店営業目的の借主に、賃貸借契約の媒介・締結を行った(媒介業者は重要事項説明において「管理規約等における専有部分の利用制限」の説明を行わなかった)。
(2) しかし、借主が店舗の内装工事を始めたところ、管理組合より「管理規約等の禁止用途にあたる」として、工事の差止め請求を受けたため、借主は賃貸借契約を解除し建物を原状に復して貸主に返還した。
(3) 借主は、媒介業者・貸主に対して、1,877万円余の損害賠償を求める訴訟を提起した。

本件裁判所の判断
借主の、媒介業者・貸主に対する855万円余(内装工事およびその原状回復費用、支払済の賃料・媒介手数料、弁護士費用等)の賠償請求を認容
認容理由
媒介業者の責任
管理規約等を踏まえると、本件建物で焼肉店を出店することが、臭気や煙の点から認められない可能性が高いという、借主にとって極めて重要な情報を借主に説明しなかった説明義務違反があり、不法行為責任を負う。
貸主の責任
賃貸取引の専門家と認められない貸主は、宅建業者に課されるような高度の注意義務を負うものではないが、多くの煙が出る飲食店は認められない可能性が高いことを認識していたことから、信義則上の説明義務に違反し、不法行為責任を負う。

〈事例2〉住環境への悪影響を理由に、管理組合が借主のレストラン内装工事を承諾しなかった
【東京地判 令4・1・18】

経緯

(1) マンションの店舗建物について、イタリアンレストラン店舗を目的とする借主は、媒介業者より、「内装工事を行う場合には管理組合の承諾が必要であること、管理規約等において臭気等により住環境に悪影響を及ぼすおそれがあるものへの使用が許されていないこと」の重要事項説明を受け、貸主と賃貸借契約を締結した。
(2) 借主が内装工事会社と請負契約を締結し、管理組合に内装工事の承認を求めたところ、管理組合は臭気について懸念を示し、その後不承認としたことから、借主は賃貸借契約・請負契約を合意解除した。
(3) 借主は、管理組合および貸主に対して、355万円余の損害賠償を求める訴訟を提起した。

本件裁判所の判断
借主の、管理組合・貸主に対する損害賠償請求を棄却
棄却理由
管理組合の責任
借主は、管理組合が懸念する臭気について、実効性のある対策を提示できなかったこと、管理規約等に飲食店営業が保証される条項が存しないこと等を考慮すると、管理組合の不承認決議は、区分所有者の共同の利益を慮ったもので不合理とはいえない。
貸主の責任
「貸主は借主に対し、管理組合の内装工事不承認により店舗の開設が難しくなる可能性があることを説明する義務がある」と借主は主張するが、借主は当該説明を媒介業者より受けていたのであるから、その主張は認められない。

01借主が建物を目的使用できないトラブル

借主が、店舗を賃借したが、その目的に使用できないとなると、借主は賃貸借契約を解除せざるを得ず、それまでに要した内装工事費用や賃料等が損害になってしまう重大なトラブルになります。

事業用建物の媒介を行う場合においては、「取引建物で借主の目的使用が可能か」の確認が重要であることを、特に意識しておく必要があります。

02〈事例1〉から学ぶこと

本件トラブルは、媒介業者が「焼肉店は大丈夫だろう」との不確かな認識に流されることなく、管理規約等を調査し、判明した焼肉店の規制について、管理組合に本件借主の目的使用が可能かの確認をしていれば、避けることができたトラブルです。

(1) 管理規約等の調査説明

マンション管理規約等の「専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め」は、借主の契約目的に重要な影響を及ぼす事項であり、宅建業法35条1項6号(同施行規則16条の2)において、媒介業者に重要事項の説明が義務付けられています。

区分所有建物の事業用賃貸の媒介を行う場合には、必ず、
①借主の建物の目的使用が可能かに関しての、管理規約・使用細則等の調査
②重要事項説明書の「用途その他の利用に関する制限に関する事項」における「管理規約・使用細則等における専有部分等の用途制限」の記載説明
を漏らさないようにします。

そして、借主の目的使用が管理組合に認められない疑いがある場合には、直接管理組合に借主の具体的用途をもって確認をとっておくことが必要です。

(2) 貸主への調査について

本件貸主が「焼肉店は大丈夫」と思っていたことも、媒介業者が管理規約等の調査を省いてしまった要因のように思われます。

貸主への調査は、必ず行う必要がある重要な調査ですが、貸主が誤った認識をしている場合もあります。

不動産取引の専門家である媒介業者においては、貸主の説明に誤りがある可能性を考慮した上で、宅建業者が通常行う調査を漏れなく行い、適切な重要事項説明を行うことが重要です。

03〈事例2〉から学ぶこと

本件媒介業者は、管理規約等の専有部分の用途等の制限に関する規約の説明をしていましたが、借主のイタリアンレストランの営業が、管理規約等の「臭気等により住環境に悪影響を及ぼすおそれがあるもの」に該当するとして、管理組合の承認が得られず、出店できませんでした。

本件のように、管理規約等の解釈や運用によって、借主の目的使用が規制される場合があることから、当該リスクの回避として、管理規約等に特段の規制が見られない場合においても、管理組合に「借主の目的使用に問題はないか」の確認をしておく(管理組合への説明・確認は、借主の使用方法・営業時間・設置設備等の内容をよく知る借主自身が行うのが望ましい)ことが、媒介実務上必要と思われます。

東京地判 令1・10・15、東京高判 平15・12・4など


一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席研究員
不動産鑑定士

中戸 康文

一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/