Vol.27 リフォーム転売した既存住宅の主要構造部に重大な欠陥が存していたトラブル
空き家問題の深刻化により、社会的要請として良質な既存住宅の流通が求められているところですが、宅建業者が既存住宅を買い取り、リフォームして販売をする取引において、取引後に建物の主要構造部に欠陥等があったことが判明して、大きなトラブルになる事案が見られます。
トラブル事例から考えよう
〈事例〉建物の傾きの修復工事を行い、その告知をせず転売した既存住宅に、引渡し5年後に地盤沈下による建物の傾き発生が判明した
【福岡高裁 令和3年11月14日和解】
(1) 競売により築17年の平屋の本件住宅を取得した売主業者は、建物に生じていた傾きについて、大工Aに調査を依頼した。床束に接ぎ木跡を確認した大工Aは、売主の指示のもと、建物の土台をジャッキアップして土台と基礎との間にコンクリートを注入し、建物の傾きを修復した。
(2) 買主の本件住宅の内覧に同行した仲介業者は、水平器により傾きを感じたことから、その旨を売主に連絡したところ、売主より対応依頼を受けたAが床下に潜って点検を行い、買主・媒介業者に「ここは問題ない。何かあったら面倒を見るから」という旨の発言をした。しかし、建物に修復工事が行われたことなどの説明はしなかった。
(3) その後売主と買主は、売買代金を660万円とする本件住宅の売買を行った。しかし、重要事項説明等において、売主が建物の傾きの修復工事を行ったことの告知・説明はなかった。
(4) 本件住宅の引渡しから約5年後、買主が建築業者Bに本件建物のシロアリ駆除を依頼したところ、建物の床下部分に、地盤沈下を示す基礎や束の浮き、土間の亀裂・沈下等や、Aが行った傾き修復工事の跡が発見された。また、Bの地盤調査により、本件土地には軟弱地盤があり、なかには長期許容応力度を大幅に下回る許容支持力0kN/㎡の地盤が多数存在する旨の報告がされた。
(5) 買主は、「Bによる本件住宅の沈下復旧工事(耐圧版工法)の見積りでは約893万円がかかり、契約目的を達成できない」として、本件売買契約を解除し、売主および同代表者、ならびにAに対して、1,298万円余の損害賠償を求める訴訟を提起した。
(6) 訴訟において売主は、「薬液等注入工法に鋼管圧入工法(アンダーピニング工法)の性質を兼ね備えた、ソリディ工法による場合であっても、その費用の見積額は378万円にすぎない。売主の示す方法により補修は可能であるから、買主は契約解除できない」と主張した。
01転売住宅における主要構造部の欠陥トラブル
宅建業者が既存住宅を購入してリフォームを行い、転売する取引において、後日、建物の主要構造部に欠陥があったことが判明しトラブルになるケースが、競売により既存住宅を取得した場合等において見られます。
主要構造部の欠陥は、多額の修復費用や買主に生じた損害の賠償を巡る大きなトラブルになりますので、下記①②の基本は必ず押さえておく必要があります。
①既存住宅の買取り前、買取り後において、主要構造部に欠陥等が存していないかの確認(存しているリスクの把握)を十分行う(特に競売取得の場合は要注意)。
②欠陥等が確認された場合は、専門の建築業者に調査を依頼し、必要かつ十分な修復工事を行う(買主に当該内容を告知する)。
また、転売後の瑕疵リスクを軽減する方法として、「インスペクションを行う、建物検査による既存住宅売買瑕疵保険を利用する」などが考えられます。
02事例から学ぶこと
(1)主要構造部の調査・修復等を専門外の業者に依頼しない
本件売主業者は、平屋で築17年を経過している建物であることから、大工Aの調査で大丈夫と考えたようですが、建物の傾き発生は、地盤の軟弱性や建物の構造耐力不足が疑われる事象であり、地盤沈下によるものであった場合は地盤の支持力を考慮した根本的な修復をしないと、建物にまた傾きが発生してしまいます。
建物の傾きや雨漏りなど、主要構造部に不具合が見られる場合は、建物構造等に詳しい建築業者に調査を依頼し、必要かつ十分な修復工事を行う必要があります。
修復工事が不十分で、売主業者が賠償責任を負うことになったトラブルは、内装業者にリフォームとあわせて専門外の主要構造部等の調査・修復工事を依頼した場合によく見られます。専門外の業者への調査等の依頼は行うべきではないと認識しておく必要があると思われます。
(2)不具合があり修復を行ったことの告知・説明を必ず行う
本件売主業者が買主に、本件住宅に傾きがあり、修復工事をした告知をしなかったことについて、一審は「本件地盤沈下の兆候は、取引において買主の判断に重要な影響を与える事情に当たることは明らかであり、その告知義務違反は不法行為を構成する」と判示し、当該行為と因果関係のある買主の損害として、売買代金のほか、買主が本件住宅に関して支払った費用等を認めています。そして控訴審においても、同様の和解勧告が行われ、売主業者は売買代金を大きく超える解決金を買主に支払うことで和解をしています。
本件のような修復工事を行った場合、売主業者には、買主の判断に影響する「本件住宅に傾きがあり修復を行ったこと、修復内容は売買契約における建物の品質等に適合すること」の告知説明を行う義務があることの認識漏れが決してないようにする必要があります。
また、当該事情等の不告知は、宅建業法35条の説明義務に違反し、故意の不告知であった場合には、同法47条1項違反により処分・罰則を受ける可能性があると考えられます。
一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席研究員
不動産鑑定士
中戸 康文
一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/