Vol.32 埋設物に関する買主の担保請求において、売主負担でない費用が請求されるトラブル


契約不適合に該当する埋設物の除去費用等の担保請求に関し、買主が工事業者の不適切な請求を言われるまま支払い、売主に請求する事案が見られます。売主・仲介業者に、買主より埋設物存在の連絡があった場合には、「現地で存在確認をする。マニフェストを受領し内容確認をする」等の対応をしておくことが推奨されます。

トラブル事例から考えよう

〈事例1〉建設業者の埋設物搬出写真について証拠能力が否定された

【東京地判 令1.9.26】

取引内容

売買物件:土地
代金:4,250万円
買主:賃貸マンション建築目的の法人
売主:不動産業者
特約事項:①売主の担保責任負担期間2年、②本件土地の地中約2m以下の箇所に杭が残存する

トラブル

●買主の建物建築工事において、杭工事中にコンクリートのガラ等の「埋設物1」が見つかった。また、その3週間後、根伐(ねぎり)工事においてコンクリート片である「埋設物2」が見つかり、買主依頼の建設業者が撤去処分したとして、買主はそれらの撤去費用や工期遅延費用の支払いを売主に求めた。

●撤去費用負担の話合いにおいて、買主の建設業者は、写真と見積書を示して「写真とマニフェストの確認により、埋設物2の撤去に10 tトラック30台※1を使用した。各撤去費用の合計は572万円余」と主張した。

※1 その後、建設業者は、「7tトラック30台」と主張を変えた。

●売主が各埋設物に係るマニフェスト等の提示を求めたところ、買主は建設業者より、「ガラ等28tの処分に関するマニフェスト、埋設物2の処分委託先の請求書237万円余、埋設されていたコンクリートガラ等の一部はリサイクルに供した旨の付箋」を受け取り、売主に送付した。売主は「コンクリートガラ等のリサイクルの説明は、従前の説明と違うので受け入れられない」として、買主に再度マニフェスト等の提示を求めたが、その提示はされなかった。

●買主は、建設業者が請求する各埋設物の撤去費用532万円余を支払い、売主に対して、当該費用と埋設物撤去の工期遅延により得られなかった賃料1月分の逸失利益51万円余、計584万円余の賠償請求をした。

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裁判所の判断 : 埋設物1に関する撤去・杭工事のやり直し費用208万円余を認め、それ以外の請求は棄却

裁判所の判断
*裁判所は、建設業者を証人として採用したが、同業者は証人尋問が予定されていた期日に欠席した。

〈事例2〉買主主張の埋設物は、買主負担の本件建物の解体ガラであると判断された

【東京地判 令5.3.29】

取引・トラブル

●売主(建設業代表者)と買主(個人)は、本件既存住宅について、買主が建物を取り壊し住宅を建築する目的で、代金2,180万円、売主の契約不適合の担保責任負担期間3カ月とする売買を行った。

●買主は、建物解体業者の連絡により、地中にコンクリートガラ等の埋設物が発見されたとして、その撤去を売主に要請した。現地を確認した売主は「埋設物は本件建物の基礎等である」として拒絶した。

●買主は、工事業者に依頼してガラ等の撤去を行い、支払った費用150万円を売主に求める訴訟を提起した。

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裁判所の判断 : 買主のガラ等の撤去費用請求を棄却

〇建物の写真や図面から推測される基礎等の推定体積と、マニフェスト記載のガラ等の体積がほぼ見合うことなどから、本件建物でない建物の基礎を搬出したとする、買主の解体業者の請求書内容には疑問がある。

〇また、他の埋設物の写真についても、陶器は本件建物のトイレと同じ柄であるなど、建物解体後の残材である可能性が高く、買主主張の埋設物があったとは認められない。

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01契約目的に影響する埋設物と契約不適合

買主が建物建築を目的とする、土地売買における契約の内容は、「買主の建物建築に関し、土地が一定の品質・性能を有していること」であり、当該内容を前提に売買金額の合意が行われています。

もし、取引後に買主の建物建築に影響する埋設物が見つかった場合、売主は、契約内容の品質・性能の土地の引き渡しをしていないので、いわゆる信頼利益(買主が土地に品質・性能不足がないと信頼して取引したことにより買主に直接生じた損害)について、担保責任を負います。したがって、事例1では、買主の建物建築に影響を及ぼす埋設物の撤去と杭のやり直し費用までの売主の責任が認められています。

なお、買主の工事遅延による逸失利益の請求については、埋設物による工期への影響が合理的期間内であることを理由に棄却されていますが、いわゆる履行利益(欠陥のない物を引き渡すという債務が履行されていれば得られた利益)の請求には、売主に告知義務違反等の帰責事由があることが必要ですので、その意味でも逸失利益の請求は棄却されたと思われます。

02埋設物の搬出工事とマニフェストの確認

産業廃棄物の排出事業者等は、産業廃棄物の収集運搬・処分等において、廃棄物の処理が適正に実施されたことを確認するための、マニフェスト(産業廃棄物管理票)を作成・交付する義務があります※2

※2 廃棄物の処理および清掃に関する法律

マニフェストには、廃棄物の種類・数量や、運搬業者名、処分業者名が記載され、産業廃棄物が適正に処理されたかについて確認をすることができます。

埋設物の撤去費用を買主より請求された場合に、請求が過大であることが疑われるときには、事例1のように、工事写真(埋設物の写真・搬出工事の写真・トラックに積載した写真)とマニフェストの提示を求め、その存在と数量の確認をする方法が考えられます。

また事例2では、マニフェストの排出数量と既存建物の図面等から、買主(工事業者)主張の埋設物は、既存建物の基礎等の搬出である立証がされたほか、立ち合い時の売主撮影写真が、ガラ等が既存建物の残材であった証拠になっています。

本件のような、工事業者の不適切な請求によってトラブルに巻き込まれるケースは珍しいとは思いますが、売主・仲介業者においては、後日のトラブル回避の観点から、買主より埋設物存在の連絡があった場合には、極力現地立ち合いを行い、その埋設物について確認をする(写真を撮っておく)、また、マニフェスト等を受領し、その内容を確認しておくことが推奨されます。


一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席研究員
不動産鑑定士

中戸 康文

一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/