Vol.33 借主が賃貸借契約期間中に亡くなった場合の対応について


宅建業者がみずから保有する賃貸不動産、または、事業として賃貸管理を受託している賃貸不動産において、賃貸借契約の借主が亡くなるケースが見受けられます。
このような場合に、適用となる法律と対応方法を理解・整理しておくことは、今後さらに進行する日本の高齢化社会の中で、賃貸に関する事業を行っていくうえで必要になっていくと考えられます。

トラブル事例から考えよう

当社が賃貸管理している賃貸不動産の借主の勤務先から「(借主が)2日間出社していない」との連絡が入った。すぐに同不動産に出向いたが、鍵がかかっていたため、警察に立ち合いを依頼し入室したところ、借主は室内で亡くなっていた。その後、警察から「死亡推定日時は2日前、事件性はなく病死」と伝えられた。

借主は、入居時に、緊急連絡先として子どもの住所・電話番号を記載していたので連絡したところ、子どもは、相続人は自分一人であるが、被相続人(借主)の相続を放棄する予定である旨の返答であった。

01賃貸借契約解除時の手続き

借主が賃貸借契約中に亡くなった場合でも、通常の契約解除・明け渡し手続きを執ることとなります。具体的には、賃貸借契約の解除手続き、家財等の撤去等です。

しかし、借主自身が手続きを執れないため、次のような手順を踏むことが必要になります。

借主が亡くなったとしても、死亡により自動的に賃貸借契約が解除となるわけではなく、相続人は、原則、賃借する権利と賃料等を支払う義務を承継することとなります。

しかし、相続人が相続を放棄した場合は、賃貸借契約を解除する権利はなく、連帯保証人等も契約を解除できないので、利害関係人等(貸主等)が家庭裁判所へ申出し、相続財産清算人を選任してもらい、さらに家庭裁判所の許可を得て、相続財産清算人が賃貸借契約の解除と、家財等の残置物を処理することとなります。以上のおおよその内容をフロー図にすると図表1のとおりとなります。

図表1:事例のフロー図

図表1:事例のフロー図

なお、この「相続財産清算人」は従来「相続財産管理人」とされていましたが、民法改正により、名称が変更となるとともに、同清算人における権利確定の期間は約10カ月から約6カ月に短縮され、従来と比較すると、清算手続き期間が短縮化されています(令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント 令和7年1月版 44ページ参照 https://www.moj.go.jp/content/001401146.pdf)。

家財等の残置物の処分の対応も、上記(1)により、賃貸借契約の解除と併行して、相続を承継した相続人、または、相続財産清算人が行うこととなり、相続放棄した相続人や保証人には、法的には処分できる権利はありません。したがって、相続を承継した相続人が処分を行う場合はともかく、相続財産清算人が行う場合の処分までの期間は、最短でも上記(1)と同程度の期間が必要となります。

02トラブル事例への対応

以上から、トラブル事例の場合では、貸主が相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申出し、選任された清算人が、賃貸借契約の解除ならびに家財等の残置物の処理をしてくれるのを待つことになりますが、この手続きについて、大半の貸主は、処理期間が長すぎて、他の対応方法がないのかと思われるのではないでしょうか。しかし、合法的な手続きとしては、これ以外ありません。

03今後の賃貸借契約における対応案

日本における高齢化・核家族化にともなう単身高齢者の賃貸不動産への入居ニーズの増加にもかかわらず、以上のような問題により、貸主側の貸し渋りの傾向を生んでいる面が見受けられます。

この問題の一つの対応方法として、国土交通省と法務省が作成した「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の活用があります。同契約条項の概要は次のとおりです。

単身の高齢者(60歳以上の者)との契約時のみ

図表2:大家・入居者・受任者の関係図

図表2:大家・入居者・受任者の関係図
出典:「大家さんのための単身入居者の受入れガイド」より抜粋

なお、①、②の契約は同一の受任者でも、別々の受任者でも可。

①賃貸借契約の解除事務の委任に関する契約

②残置物の処理事務の委任に関する契約

(注)受任者は次のいずれかが望ましいとされています。
・ 賃借人の推定相続人のいずれか
・ 居住支援法人、管理業者等の第三者
(なお、賃借人の利益のための誠実な対応が求められます)

この手続きにより、借主が亡くなった場合でも、相続財産清算人による賃貸借契約解除により短期間での対応が可能となり、貸主も、単身の高齢者に賃貸しやすくなると考えられます。

なお、国土交通省の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」のホームページには、「大家さんのための単身入居者の受入れガイド」「残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック」といった複数の資料掲載があり、本稿では説明できなかった、終身建物賃貸借契約に関する記載や、借主が亡くなった事実の把握方法といった記載もあります。

賃貸管理事業者の方は、みずから一読いただいたうえで、貸主への説明・説得資料として活用していただければと存じます。



一般財団法人
不動産適正取引推進機構
客員研究員

室岡 彰

一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/