Vol.36 宅建業者が売主の場合の契約不適合責任について
宅建業者が、不動産を取得・転売する場合においては、売却不動産の大半は中古不動産であるため、どの程度の経年劣化が、契約不適合(瑕疵)となるかは、重大な関心事といえます。
そこで今回は、経年劣化に関する裁判例を参考として取り上げさせていただきます。
トラブル事例から考えよう
〈事例1〉
リフォーム工事済みのマンションの買主が、売主に対し、排水管が詰まり、排水不良が発生する瑕疵が存在していたとして、売主の瑕疵担保責任等を理由とする損害賠償を求めた
(東京地裁 平成28年4月 22日判決 ウエストロー・ジャパン RETIO117-126)
平成26年6月、買主は、売主(宅建業者)と中古マンションの売買契約を締結した。買主は入居後、台所の流し台に洗い桶1杯分程度の水を流すと、残飯や汚水が逆流する状況が発生したため、専門業者に調査させ、排水管に詰まりが発生していることが判明した。
買主は、「この排水管に詰まりが存在する本件建物は、取引上期待される品質および性能を欠いている」と主張。また「売主は『新築同様にフルリフォーム』と表示して本件建物を売り出したのであるから、本件建物に新築同様の品質および性能が備わっていることを保証したことになり、排水管に詰まりが存在することは瑕疵にあたる」として、調査費用と当該瑕疵の補修費用405万円余等の支払いを求め提訴した。
< 裁判所の判示(要旨)> 買主の請求を棄却
裁判所は、次のように判示して、買主の請求を棄却した。
台所の流し台に一度に多量の水を流すと、一時的に水が滞留し、排水口から空気が噴出する場合も認められるが、短時間のうちに流れきる程度のものであり、流し台の使用に関して特別支障になるとは認め難い。また、本件建物は、契約当時、築後44年以上が経過しており、設備等に新築物件に劣る部分があることは当然に想定され、このような状況の存在が、同築年数の中古マンションとして通常有すべき品質または性能を欠くものであったとは認め難い。
リフォームが行われていても、本件建物に、新築と同様の品質および性能を備えることはおよそ期待できる状況にはなかったと考えられ、「新築同様にフルリフォーム」との表示により、瑕疵の存否に関する判断が左右されるものではなく、本件建物に瑕疵が存在していたとは認められない。
〈事例2〉
建築後約27年の事業用賃貸不動産の買主が、引渡しの約5カ月後にエレベーターが故障し使用不能になったとして、売主に瑕疵担保責任等に基づく補修工事費用支払いを求めた
(東京地裁 平成30年3月19日判決 ウエストロー・ジャパン RETIO119-134)
平成28年6月、建築後約27年の賃貸マンション一棟を購入した売主(宅建業者)は、翌年5月を期限とする竣工時設置のエレベーターの保守契約を保守業者と締結した。
同年10月、買主は、本物件を①売買金額1億2,500万円、②瑕疵担保責任期間:2年、③設備等には、経年変化等による性能低下・汚れ等があることを買主は了承のうえ買い受けるとした売買契約を締結し、同年12月に引渡しを受けた。なお、買主は、契約締結前と引渡し後の平成29年1月にエレベーターに乗ったが、特に不具合等は見られなかった。
平成29年1月、買主は、エレベーター保守業者から、部品交換(交換費用855万円)をしなければ、保守契約を締結できないとの申し出があったため、買主は、売主から平成28年6月と10月実施の定期点検報告書、保守業者から平成28年10月実施の法定点検報告書の写しを受領した。
同年5月、エレベーターの着床時に、床とずれて着床する事態が生じたため、買主は、エレベーターに瑕疵があったとして、交換費用相当額の支払いを売主に求め提訴した。

< 裁判所の判示(要旨)> 買主の請求を棄却
裁判所は、次のように判示して、買主の請求を棄却した。
①保守業者は、平成29年5月を期限とするエレベーターの保守契約締結に応じている、②保守業者の平成28年6月と10月の各定期点検および同年10月の法定点検には「要是正(既存不適格)」の判定はあったが、その後は「指摘無」とされており、定期検査報告済証も発行されている、③契約締結前および引渡し翌月には、エレベーターは特段支障なく使用できた、④エレベーターの保守管理前提の計画耐用年数は25年のところ、契約締結時点には、設置後27年以上を経過していたこと等から、エレベーターに相応の経年劣化は想定されていたといえる一方、使用に特段の支障もなく、直ちに安全性を欠く状態だったとは認められず、エレベーターに「瑕疵」があったとは認められない。
まとめ
以上から、次の対応が、経年劣化に関するトラブル防止に役立つと考えられます。
①設備表等での不具合箇所の記載と買主への交付
設備等をどの程度の経年劣化の状態で引き渡すのかを、買主に説明しておくことは、経年劣化の状態での売買であることに合意した根拠となります。また、リフォーム後の売却の場合は、リフォームに伴い交換した設備等を明記することで、交換されなかった設備は、原則建築時からの経過年数による劣化があることを、買主に理解してもらうための参考となります。
②引渡し直前での買主立ち合いでの設備の稼働確認
設備の状態を確認せず引き渡したため、設備の故障が、契約不適合なのか、経年劣化による故障なのかの判断が困難な場合が散見されます。
極力、引渡し直前に、買主立ち会いのもと、設備等の稼働の可否を確認しておくことが、契約不適合か経年劣化による故障かの判断の際の根拠となり得ます。また、事例2の事業用不動産のような場合、エレベーターや消防設備といった一定の点検が義務付けられている設備については、点検結果の報告書が、契約不適合か経年劣化による故障かの客観的な判断の根拠資料となり得ますので、保管するとともに、引渡し前に買主に写し等を交付しておくことが必要といえるでしょう。
一般財団法人
不動産適正取引推進機構
客員研究員
室岡 彰
一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/