Vol.38 所有者が個人である建築基準法の道路についての留意点
宅建業者が重要事項説明書を作成する際、「敷地と道路との関係」欄に、公道か私道かをチェックする欄が設けられている場合がありますが、公道か私道かの区分は、「建築基準法の道路か否か」「行政が維持管理をしているか否か」「所有者が行政か否か」等の何で決まるのかといった疑問を持たれている方もいるかと思います。
そこで、今回は、建築基準法の道路である「公」の性格と、所有者が個人である「私」の性格を併せ持つ位置指定道路のトラブル事例に関しての対処法を考察します。
公道・私道の定義は、法律で明確に定義されているわけではないため、たとえば、全日本不動産協会では重要事項説明書(売買編)解説書138ページで「登記簿上の所有者欄に、国・地方公共団体が記載されている場合は公道、私人が記載されている場合には私道として、説明してください」としています。
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈と運用の考え方について」に添付されている別添3の重要事項説明書には、「敷地と道路との関係」欄に、公道・私道の記載欄はありません。
しかし、売買対象の不動産が接道している建築基準法上の道路の所有者が、個人か否かは、重要なことであり、個人所有の場合のトラブルも生じていますので、以下で説明いたします。
トラブル事例から考えよう
〈事例〉
位置指定道路の個人所有者が、道路に簡易ゲートを置いたり、近隣住民の通行ができなくなるような工事施工を予定したりする行為に対し、近隣住民が妨害行為の排除を求め提訴し、控訴を経て、最終的に最高裁判所まで争われた事例。
(最高裁判所 平成9年12月18日判決 最高裁判所ホームページ)
事案の概要
昭和33年に市から道路位置指定をうけた個人所有の道路は、指定以後30年にわたり、近隣住民の徒歩および自動車による通行に利用されていた。近隣住民Aも、公道に通じる他の道路が階段状であり、自動車の通行ができないため、本道路を自動車通行に利用していた。
平成3年9月ころ、同道路の所有者Bは、Aを含む近隣住民の自動車通行をやめさせる目的で、道路に簡易ゲートを設置したため、Aらは自動車通行のたびに、下車して同ゲートをどかす必要が生じた。
さらに、平成4年2月、Bは、Aが所属する自治会に、本道路の通行を不可能にする工事を施工する旨通知したため、裁判となった。

< 裁判所の判示> 近隣住民Aの請求を認容
裁判所は、次のように判示し、近隣住民Aの請求を認容しました。
道路位置指定を受けている道路を公衆が通行することができるのは、本来は道路位置指定に伴う反射的利益にすぎず、その通行が妨害された者であっても、道路敷地所有者に対する妨害排除等の請求権を有しないのが原則であるが、道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、または妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が通行を受忍することによって、通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して妨害行為の排除および将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。
Aは、道路位置指定を受けた本件土地を長年にわたり自動車で通行してきたもので、自動車の通行が可能な公道に通じる道路は外に存在しないのであるから、本件土地を自動車で通行することについて、日常生活上不可欠の利益を有しているということができる。また、本件土地の所有者Bには、BがAらの通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情があるということはできず、特段の事情に係る主張立証もない。したがって、Aは、Bに対して、本件土地についての通行妨害行為の排除および将来の通行妨害行為の禁止を求めることができるというべきである。
まとめ
最高裁判所の判決をまとめると、ほぼ次のようになるかと思います。
- ①個人所有の位置指定道路の近隣住民は、原則、道路所有者の通行妨害に対する妨害排除請求権を有しない。
- ②一方、通行に日常生活上不可欠の利益を有する近隣住民は、人格権的権利を有する。
- ③そのため、近隣住民の通行により、道路所有者に近隣住民の通行利益を上回る損害等が生じないのであれば、人格権的権利により、近隣住民は道路所有者の妨害を排除できる。
「日常生活上の不可欠の利益」という考え方は、平成12年1月27日の最高裁判所における、個人所有の建築基準法第42条2項道路における近隣土地所有者の自動車通行に関する裁判においても判断の基準とされ、自動車通行は認められないとする判決が下されています。
しかし、何が「日常生活上の不可欠の利益」にあたるかは、法律等で明記されているわけではなく、裁判においては、事案判断(ケースバイケース)になるかと思います。
そのため、自動車での通行が可能なのかは、道路所有者との書面による合意書等がない限り、判断できかねます。
したがって、接道している道路が建築基準法の個人所有の道路である不動産を取り扱う場合、自ら売主、または、媒介業者となる宅建業者は、重要事項説明書に、道路所有者との間に道路利用に関する書面等がある場合はその内容を記載し、ない場合は、「同道路は個人所有のため、自動車等の通行や掘削・埋設に関し、道路所有者の承諾等が必要となる場合がある」旨を記載しておくことが必須といえるでしょう。公道・私道の区分がある場合、「私道」にチェックを入れておくことも、買主に対し、道路は個人所有であり、利用に制限がある可能性を認識させる効果があるといえるでしょう。
なお、不動産適正取引推進機構の「RETIO判例検索システム」では、多くの通行に関する紛争の裁判例を閲覧できますので、参考になるかと思います。
一般財団法人
不動産適正取引推進機構
客員研究員
室岡 彰
一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/