Vol.40 外国人買主との国内の不動産売買における留意点と対応案について


昨今は、外国人が日本国内の不動産売買の契約当事者となる取引も増えており、不動産に関する電話相談でも、リゾート地域のみならず、都心部の宅建業者の方からも、「外国語での説明や契約書類の作成をする必要があるのか」といった相談を受けることがあります。
そこで、今回は、外国人が不動産売買の買主となる場合の留意点と対応案について、裁判例を踏まえて説明します。

トラブル事例から考えよう

〈事例〉
分譲マンションの売買契約を締結した外国人買主が、「売主業者が外国語を用いず日本語のみで重要事項説明をしたことは不十分であり、情報提供義務違反にあたる」として、損害賠償等を請求した。

(東京地裁 令和3年3月11日判決 ウエストロー・ジャパン RETIO128-138)

事案の概要

Xたち(外国人買主本人・両親・弟)、Y(売主業者)、A(Xたちの日本人通訳)、B(Yの担当者)

平成28年10月、Xは家族(両親と弟)および通訳Aと共に、不動産業者Yが分譲した高層マンションのモデルルームを訪れた。その際、Yは、外国語を話せない担当者Bが対応し、XたちにおいてはAが通訳を行った。Xたち家族はいずれも中国人であり、主たる言語は英語と中国語で、日本語を話すことはできなかった。A(日本人)は、Xの母の会社のアシスタントとして、必要に応じて、日本語と英語との通訳を務めた。同年11月、Xは、1507号室の売買契約を締結し、手付金2,190万円を支払い、さらに後日、1506号室の売買契約を締結し、手付金2,190万円を支払った。この2件の契約のいずれにおいても、Xたちのほか、Aが通訳のために同席し、Y側は、BがXたちに対して重要事項説明(以下、重説)を、Aの通訳を介して行った。平成30年2月、Xたちは、1506号室と1507号室の竣工後に内覧を行った。

その後、Yは、平成30年4月の引渡日までに売買残代金の支払いがなかったことから、Xたちに対して契約解除の意思表示を行い、手付金を違約金として没収する旨を通知した。これを受けて、Xたちは、①日本語を話すことができないにもかかわらず、Yは売買契約書や重説についても英文の書式を用意せず、通訳もAに一任していた、②重説は、契約の内容を正確に理解させるための義務であり、外国人に日本語で説明するだけでは、説明としては不十分であり、Bが情報提供義務に違反したことは明らかである等として、Yに対し債務不履行による損害賠償(手付金相当額4,380万円)、およびBの不法行為による慰謝料(100万円)を請求した。

これに対しYは、①外国人に対する重説を外国語で実施することは法令上要求されていない、②顧客側で用意した通訳の正確性を判断することは困難であり、このような通訳を介して行われた重説が何ら不適切とされる理由はない、等と主張した。

時系列

< 裁判所の判示> 買主の請求を棄却

裁判所は、次のように判示して、Xたちの請求を棄却した。

買主が外国人である場合に、日本語を理解できず自ら通訳を同行して重説を受ける事態も生じ得るところ、宅建業者においては、当該通訳の資質や翻訳内容の正確性、さらには通訳内容が買主に理解できる説明がされているか否かを判断することは困難であるといわざるを得ない。そうすると、重説を受ける買主においては、その手段の選択やその選択結果としての通訳の正確性等に関して、その危険については自ら引き受けるべきものと解するのが相当である。その上で、宅建業法においては、日本語を理解しない外国人に対して重説を外国語で行うべきことまでは規定されておらず、これが法的義務であると解することもできない。

以上によれば、BがAの通訳を通じてXたちに重説を行った以上、重説の内容や程度を充足しているものと認められ、情報提供として欠けるところはなく、何ら義務違反を認めることはできない。そして、この認定判断を覆すに足りる事情も認められず、Xたちの情報提供義務違反による債務不履行に係る主張は理由がない。また、Bの対応に何ら不法行為が成立するものとも認められない。

まとめ

前記裁判例から、日本語を理解しない外国人買主に対し、外国語での重要事項説明や書類作成をすべき法的義務がないことは、ご理解いただけたかと思います。

しかしながら、通常どおり、日本語での重説や契約書等の書類を説明していく上で、日本語が理解できない外国人契約者に、どのように重要事項や契約内容を伝え理解してもらうかという問題は残ります。この問題に対応していくためには、最低限、以下の対応が必要かと考えられます。

1.契約希望外国人が日本語を理解できるか否かの確認
契約を希望する外国人に対し、契約に関する重要事項等の説明や、同書面や契約書等の書面はすべて日本語で行うことを伝えた上で、同外国人から日本語を理解できるか否かの返答をもらう。

2-1. 日本語を理解できるという返答の場合は、日本語での説明・書面による契約であることを承諾する旨の書面をもらう

2-2. 日本語が理解できないという返答の場合、日本語を理解できる代理人を立てるか、買主の負担と責任により通訳を立ち会わせることと、立ち会う通訳の名前・住所等を記載した書面をもらう

3.使用予定の契約書式に以下の①から③の記載が入っていない場合は、契約書に追記しておく
① 準拠法として日本の法令が適用されること
② 専属的合意管轄裁判所は日本国内の裁判所とすること
③ 参考として、外国語の契約書類等を渡しても、日本語での契約書等の書面を正本とする

4.通訳を立てることとなった場合、契約締結時には、同外国人とともに、通訳にも署名をもらう

なお、外国人買主に対して、上記対応や、犯罪収益移転防止法に基づく本人確認に加え、売買代金の送金・支払い方法、登記、外為法の対応等も必要となりますので、国土交通省作成の「不動産事業者のための国際対応実務マニュアル」により、これら事項を確認いただいた上で、同マニュアル公表以降の法令改正等の内容を確認していただくことをおすすめします。



一般財団法人
不動産適正取引推進機構
客員研究員

室岡 彰

一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/