Vol.6 建物の耐震強度不足と契約不適合責任/媒介責任


建物購入希望者の地震による建物の安全性に対する関心は高く、建物の耐震性は購入判断の重要ポイントとなっています。宅建業法は、耐震診断の内容を説明事項としていますが、適用除外となっている新耐震建築物の地震に対する安全性についての説明トラブルがみられます。

トラブル事例から考えよう

事例 建物の耐震強度不足についての契約不適合責任と媒介責任

Aさんから築25年の中古住宅の売却依頼を受けた宅建業者Cは、売却前にインスペクションを行うことをすすめましたが、Aさんは現況のまま売却することを希望しました。購入を希望するBさんは、契約前のインスペクションを希望しましたが、Aさんはこれを拒否しました。Bさんは、重要事項説明書の「耐震診断の内容」の事項が適用除外と記載されていたので、Cに対し、「建物の地震に対する安全性が心配なのですが、大丈夫でしょうか?」と質問しました。これに対し、Cは、「1981(昭和56)年6月以降に建築された建物は新耐震設計基準で建てられ、地震に対する安全性が高いことから、宅建業法は、1981年6月以降の建物については、耐震診断の事項を適用除外としています。本件建物は、1995年に建築された新耐震建築物であり、地震に対する安全性が高いので心配いりません。大丈夫です」と説明しました。AさんとBさんは、Cの媒介で契約を締結しました。引渡し後、Bさんが一級建築士事務所に耐震診断を依頼したところ、耐震強度が不足しており、補強工事(概算費用100万円)が必要であることが判明しました。

Bさんは、(1)売主Aさんに対しては、耐震強度不足を知っていたからインスペクションを拒んだのではないのか、耐震強度不足は建物の品質に関する契約の内容に適合していないとして、(2)宅建業者Cに対しては、地震に対する安全性が高く心配ないと虚偽の説明をした説明義務違反があるとして、補強工事費用の負担を求めています。これに対し、Aさんは、雨漏り・主要構造部の腐食・シロアリの害・給排水管の故障についてのみ契約不適合責任を負う契約であり、耐震強度不足についての責任を負わないとして、また、Cは、昭和56年6月以降に建築された新耐震建築物は地震に対する安全性が高いことから、宅建業法では説明事項から除外していることを説明したのであり、説明義務違反はないとして、それぞれBさんの要求を拒否しています。

事例の図
  • (1)売主Aさんは、耐震強度不足についての契約不適合責任を負うか。
  • (2)宅建業者Cに説明義務違反があるか。

01耐震強度不足と契約不適合責任

■瑕疵担保責任制度の廃止

引き渡された建物に瑕疵が存在していた場合、瑕疵担保責任の問題として取り扱われてきましたが、本年4月1日に施行された改正民法は、瑕疵担保責任制度を廃止し、引き渡された建物に瑕疵が存在していた場合、その瑕疵が「隠れた瑕疵」であるか否かを問わず、種類、品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、売主は契約不適合責任を負うとする契約責任の問題にルールを変更しました。

※民法の規定からは「瑕疵」の文言がなくなりましたが、住宅品質確保法は、「瑕疵とは、種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態をいう」と定義して、従来どおり、「瑕疵」の文言を使用しています。

■耐震強度不足と欠陥(瑕疵)

耐震強度不足そのものは、建物の品質に関する欠陥(瑕疵)ともいえますが、建物が建築時の法令に適合した建築物である場合、現行法令の基準に照らすと基準を満たさない耐震強度不足の建物であっても、既存不適格建築物にすぎず、耐震強度不足の欠陥住宅とはいえません。

■売主の契約不適合責任

本件建物に施工不良等が原因で耐震強度不足が生じている場合は、建物には品質に関する欠陥があることになるので、売主には契約不適合責任の問題が生じます。しかし、本件契約では、売主は雨漏り等の4つの不具合に限り不適合責任を負う特約があるため、耐震強度不足についての責任を負いません。ただし、売主が、過去に実施した耐震診断等により建物の耐震強度不足を知りながら、買主に告げていないときには、免責特約があっても不適合責任を負うことになります(民法572条)。

02地震と建築基準法(耐震設計基準)

日本は地震国であることから、建築基準法では、建物の地震に対する安全性のための設計基準を厳しく定めています。大地震の経験を踏まえ、耐震設計基準も都度改正されています。

昭和56(1981)年改正では、耐震に関する考え方が根本的に見直され、構造計算基準そのものが改正されています。この昭和56年の耐震設計基準の大改正以降に建築された建築物を「新耐震建築物」と呼んでいます。平成7年の阪神・淡路大震災、平成23年の東日本大震災においては、建築物にも多大な被害が生じましたが、新耐震設計基準で建築されたビル・マンション等の大規模建築物での被害は少なく、はからずも、新耐震建築物の地震に対する安全性は高いことが確認されました。宅建業法は、この新耐震建築物については、重要事項説明における「耐震診断の内容」に関する事項を適用除外としています。

平成12(2000)年改正では、小規模建築物(一般木造住宅等)の耐震基準を強化しました。①耐力壁配置のバランス計算、②地耐力に応じた基礎構造(地耐力調査の事実上の義務化)、③構造材と継手・仕口の仕様の特定などが規定されました。この平成12年改正以降に建築された一般木造住宅等は「新・新耐震建築物」といえます。2016年に発生した熊本地震において倒壊(大破含む)した木造住宅の被害調査報告によると、M町で倒壊した527棟の木造住宅のうち、旧耐震住宅が347棟(66%)、2000年改正以前の新耐震住宅が161棟(31%)、2000年改正以降の新・新耐震住宅が19棟(4%)となっています。2000年改正以前の新耐震住宅では161棟もの住宅が倒壊していることからも、1981年改正~2000年改正の間に建築された一般木造住宅は、新耐震の建物であっても、耐震強度が不足しているものが少なからず存在していることがわかります。

03宅建業者の説明義務

本件媒介業者に説明義務違反があるとはいえませんが、「心配いりません」と誤解を招く説明をしたことがトラブルの原因になっています。根拠なく「心配いりません」などと答えないように注意します。地震に対する建物の安全性に関する質問を受けたときは、「建物の耐震強度や地震に対する安全性などについては、耐震診断を実施しないと判断することができません」などと説明します。必要に応じて、「地震と建築基準法」の関係も併せて説明するとよいでしょう。


村川 隆生

一般財団法人不動産適正取引推進機構 客員研究員
TM不動産トラブル研究所 代表

村川 隆生

1973年大学(法学部)卒業後、住宅、不動産業界で住宅・仲介営業等に従事、2000年12月より一般財団法人不動産適正取引推進機構調査研究部、2016年11月退職、2017年1月より現職。業界団体主催の各種研修会、消費者団体主催の相談員養成講座、その他の講師として全国で講演。宅地建物取引士・一級建築士。著書に『わかりやすい!不動産トラブル解決のポイント』【売買編】【賃貸編】ほか(住宅新報)。