Vol.16 宅建業取引の利益の分配合意と無免許営業・名義貸しに関するトラブル


令和3年6月29日、最高裁において、無免許営業・名義貸しに関する判決がありました。無免許営業・名義貸しは重大な宅建業法違反であり、重い刑事罰が定められています。思い違いや理解不足によって当該違反行為を行ってしまうことがないよう注意をお願いします。

トラブル事例から考えよう

〈事例〉AがBの名義を借りて宅建業取引を行った収益の分配を争い、最高裁で利益分配合意は無免許営業・名義貸しに抵触し無効とされた
【最高裁 令3・6・29 裁判所ウェブサイト】

A(P社の専任の宅建士)とB(宅建業者)は、Aが仲介業者から紹介を受けた本件不動産について、Bの名義を用いて購入と売却を行い、Bに名義貸し料300 万円を分配する合意(本件合意)を行いました。

Aは、Bの名義で、本件不動産の購入・転売を行い、得られた収益2,619万円余について、本件合意に基づき2,319 万円余の支払いをBに求めました。しかしBは、名義貸し料が300 万円とされたことに納得ができないとして、Aに1,000万円を支払いました。

AはBに残余の1,319万円余の支払いを求め訴訟。一方Bは、Aの請求に法的根拠がないとして、支払った1,000万円の返還を求め反訴しました。控訴審がAの請求を認めたためBが上告しました。

トラブル事例の図

01無免許営業・名義貸しは重大な宅建業法違反

宅建業法は、購入者等の利益の保護と不動産流通の円滑化を図るため、宅地建物取引業を行う者について免許制度を実施し、不適格な業者を排除しています。そして、免許制度担保のため無免許営業、および、無免許営業の潜脱行為となる名義貸しは重大な違反行為として、宅建業法では最も重い罰則規定を設けています。

しかし、本件事案のA・Bは、ともに宅建業法に精通する宅建士の資格者ですが、無免許営業・名義貸しを行い、その利益分配を巡って裁判までしています。また、当機構の電話相談でも、宅建業者や宅建士の方から、無免許営業や名義貸しに抵触するような事業方法の相談を受けることがあり、意外にも、宅建業実務に従事されている方において「無免許営業・名義貸しが重大な違法行為にあたる」ことの認識が十分されていない(されにくい)のではないかと懸念されるところがあります。

宅建業者におかれては、いま一度、本判例などを参考に、無免許営業、名義貸し、無免許営業幇助に該当するケースについて確認をしていただき、従業員の方に対しても注意喚起をしておいていただくことが勧められます。

02本判例の要旨と参考点

本判例の、無免許者が宅建業者から名義を借り、当該名義によって取引による利益を両者で分配する合意をして行う取引は、
①名義を借りて宅建業取引を行った無免許者は、業法12 条1項(無免許営業)違反に該当名義を貸した宅建業者は業法13条1項(名義貸し)違反に該当
②本件合意は、業法12条1項及び13条1項の趣旨に反するもので、公序良俗に反し無効

の判断と、高裁のAの1,319万円余の請求を認めた部分を破棄した判決は参考になると思われます。

※ 本件はその後和解された。なお、名古屋高判 平23・1・21は、名義貸し業者より無免許者への請求について、裁判上行使することが許されない性質のものとして棄却している

03名義貸しにならないために

業務提携が、実質、名義貸しである事案も見られます。利益分配合意が、名義貸し(無免許営業)と判断されるものとして、下記の裁判例もありますので、思い違い等によって名義貸し行為とならないための参考にしていただけたらと思います。

無免許営業・名義貸し事例

【宅地建物取引業法 一部抜粋】
※ 宅地建物取引業免許
(無免許事業等の禁止)
第12条 第3条第1項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。
2 第3条第1項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営む旨の表示をし、又は宅地建物取引業を営む目的をもつて、広告をしてはならない。
(名義貸しの禁止)
第13条 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。
2 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に、宅地建物取引業を営む旨の表示をさせ、又は宅地建物取引業を営む目的をもつてする広告をさせてはならない。
(罰則)
第79条 次の各号のいずれかに該当する者は、3 年以下の懲役若しくは3百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
① 不正の手段によって第3条第1項の免許を受けた者
② 第12条第1項の規定に違反した者
③ 第13条第1項の規定に違反して他人に宅地建物取引業を営ませた者
④ 略


一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席主任研究員
不動産鑑定士

中戸 康文

一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/