Vol.75
従業員が知りたい不動産調査基礎編 ⑫
地中障害物の有無の調査技術について
地中障害物の発覚による不動産トラブルは数多くありますが、賠償請求金額が多額になる場合もあります。訴訟になった場合には、宅建業者が訴訟に巻き込まれることもあるため、本節では、この分野の調査方法について述べたいと思います。
地下室が存在した損害賠償訴訟!
こんな事件がありました。
宅建業者間の不動産売買で、買主は10階建てマンション建設を目的にして、古家付き土地建物を約4億円で売主から買い受けました。古家は、「木造亜鉛メッキ鋼板葺き平家建て」だったため、「地中障害が発生した場合は、売主の責任と負担で解決する。ただし、本物件建物の基礎の部分については、買主の責任と負担で解決する」旨の条項が付与されました。
本物件引き渡し後、「マンション建築のために地下掘削工事を開始したところ、本件土地には、2つの建物のコンクリート基礎があり、その内の1つは長さ約12m、幅約4.9m、深さ約4mの地下室用のもので、さらにその下に基礎杭が打ち込まれているものであること」が判明。そのため、買主は、撤去費用として約3,000万円の損害賠償を請求し、東京地裁で勝訴しました。
判決では、「本件で実際に発見された地下室を伴う基礎については、想定を超えるものであったことは明らかであるといえる。したがって、その撤去費用については、売主が負担すべきである」としました(平成9年5月29日、東京地裁裁判官・永野圧彦、判例タイムズ№961より)。
地下室等の地中障害物の調査技術!
勝訴したからといって、これでいいということはありません。地中障害物の有無の調査をしていなかったために、この土地には2棟の建物および地下室が存在したことが、取引後にわかり、事件になったのです。
「宅建業者が行う通常の不動産調査」では、法務局において、過去の土地建物の履歴調査については通常行いませんが、このようなトラブルに巻き込まれることを避けるために、次のような調査方法があります。
法務局カウンターにある黒い帯の申請用紙に、種類「建物」にチェックを入れ、次に、土地の所在地番を記載、建物の家屋番号は不明ですので空欄とし、その空欄を〇で囲み下へ線を伸ばし、その列の下に、まるかっこをして、(底地上の建物すべて)と記載をして申請をします。さらに、同じ黒い帯の申請用紙に、種類「建物」にチェックを入れ、所在地番を記載し、家屋番号を空欄とし、その列の下に、(閉鎖された底地上の建物すべて)と記載をして申請をします※。これにより、取引する土地上に現在存在する建物の登記事項と、過去に登記され抹消済みの建物のすべての情報を取得できます。これで地下室付きの建物の登記事項が交付されますので、地下室の存在が明らかになった場合の措置について、事前に当事者間で対策ができるでしょう。このような建物の登記が確認された場合は、緑色の帯色の申請用紙で、建物登記図面および閉鎖された建物登記図面を申請して、敷地内での配置状況の確認もできるでしょう。これが、地中障害物を確認するための調査方法の基本です。
※記載の具体例は2024年4月号「物件調査のノウハウ」ポイント参照
土壌のオイル汚染は地中障害物とした事例
こんな事件がありました。
マンション建設会社である買主は、鉄鋼業等を営む売主が建築した、非鉄金属の保管用倉庫、事務所兼独身寮の2棟の建物がある江東区の土地800㎡を、大手銀行不動産部のほか宅建業者1社が仲介人となって、代金3億3,250万円で売買契約しました。特約には、「本件売買契約に際し、本件土地に廃棄物、地中障害物または土壌汚染等の隠れた瑕疵がある場合に、本件土地の引渡し日以後6か月を経過したときは、買主は売主に対して担保責任の追及ができないものとする」としていました。施工会社が着工したところ、①建物のコンクリート基礎、②オイルタンク、③オイルタンクからの配管、④オイルによる土壌汚染が発見されました。そこで、地中障害物撤去費用等をめぐって訴訟となりました。争点は、④オイルによる土壌汚染が瑕疵か否かでした。
ガソリンスタンド跡地に見られるオイル類による汚染土壌は、土壌汚染対策法に定める基準値には該当しないため、法規制の対象外ですが、判決では、「本件土地における土壌汚染は、マンション建設の基礎工事途中で発見される程度に浅い位置において、多量のオイル類を含有し、しかも、容易に悪臭を発生し得るような状態にあったというのであるから、本件土地に基礎を置き、多数の住民を迎え入れることになるマンションを建設することを妨げる程度に至っており、特別に費用をかけてでも処理する必要があるといわざるを得ない。したがって、本件土地は、取引通念上通常有すべき品質、性能を欠くというべきであり、上記土壌汚染は本件土地の瑕疵に当たる」として、損害金約4,600万円の支払いが命じられました(平成14年9月27日、東京地裁小磯武男裁判長、裁判所Webより)。
土壌汚染の可能性の有無の調査技術
宅建業者による重要事項説明における調査説明義務項目は、土壌汚染対策法の第9条(要措置区域内における土地の形質の変更の禁止)と第12条第1項、第3項(形質変更時要届出区域内における土地の形質の変更の届出)です。しかし、このような訴訟事件に宅建業者が巻き込まれていることも事実です。
この対策としては、法務局において、前掲にならって、土地および建物の閉鎖登記事項証明書を取得します。特に、建物の申請では、「現在のものと閉鎖の建物登記事項証明書」を申請します。少なくとも、所有者名義人に、燃料関係者の企業が取得していた可能性があります。また、役所では、「下水道法、水質汚濁防止法、環境保護条例等の3種類の法令による特定事業場の記録の調査」をします。「ガソリンスタンドあり」等として、事前確認ができた場合、インスペクション特約によるトラブル回避をすることができるかもしれません。この土壌汚染の可能性の有無の調査は、宅建業者に義務付けられた通常の調査方法ではありませんが、リスク回避方法の一つとして、知っておくことは大切です。
ポイント
「地中障害が発生した場合は、売主の責任と負担で解決する。ただし、本物件建物の基礎の部分については、買主の責任と負担で解決する」という特約をしていたが、地下室用の埋設物は、買主の想定外の多額の費用がかかるため、隠れた瑕疵に該当する場合が多い。
※写真は本件とは別件です。


不動産コンサルタント
津村 重行
三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。