Vol.19 DXを失敗しないためのコツ


不動産テック時代の到来 進む!業界のIT化

経営や業績に大きなインパクトをもたらするDX(=デジタル・トランスフォーメーション)ですが、最初の部分でつまずいてしまう会社が散見されます。今回はDXを失敗しないためのコツについてお話しします。

■ トップダウンのDXは失敗する

DXに関する連載の第1回目で、そもそもなぜDXが必要なのかという点について、「他社に生産性で負けないため」「他社に顧客体験で負けないため」ということをお伝えしました。そして今になってDXが声高に叫ばれているのは「高度技術の一般化」と「コロナによるニューノーマルの誕生」により、DXが進む土壌ができ上がったからだということを解説しました。現在の世の中は、まさにDXへの取り組みが企業の生き残りを分ける状況にあるのです。

当然、このような状況の中で強い危機感を持っている経営陣の方は多数いると思います。しかし、この危機感が裏目に出ることがあるのです。

弊社でも不動産仲介会社の業務改善をお手伝いしていますが、その中でよくあるのが、社長や経営陣などが強い危機感を持っているがゆえにトップダウンで急速にDX化を進めようとし、結果として失敗する、というケースです。

不動産会社の場合、社長や経営陣は元トップセールスであることが多く、決断力に優れています。それゆえ、ついついトップダウンで物事を進めたくなります。

もちろん、経営においては、トップダウンが必要なこともあります。特に非常事態における意思決定や対応などは、有無を言わせぬトップダウンが有効なシーンがあるでしょう。

しかし、トップダウンは連続性と相性が悪いという特徴があります。「社長に言われて無理やりこのツールを導入したが、まったく機能せず、それがトラウマとなって現場では新しいツールへの反発が強い」ということが特に多くみられます。トップダウンは短期間の勝負であれば問題ないのですが、長期戦になるとマイナスの影響が出てきます。トップダウンを長期間組織に強いると、組織内に「シラケ」が蔓延します。シラケが蔓延した組織は、考えることや、能動的に動くことをやめてしまいます。

DXは時間がかかるものです。DXでは、データとデジタル技術を使いこなし、サービスやサービスの提供方法を作り変え続けていくことが求められます。DXとは「正解」ではなく、「正解」にたどり着くための方法と言えます。そして、その「正解」が刻一刻と変わっていくのが、現在の世の中なのです。

トップダウンを長期間強いると、組織にマイナスの影響が出始める

■ DXに失敗しないための2つのポイント

それではDXに失敗しないためにはどうすれば良いのでしょうか。それは「現場を巻き込む」「情報をオープンにする」の2点に尽きます。

なぜ現場を巻き込むことが必要なのかというと、先ほどもお伝えしたようにDXは長期間かつ連続的な戦いになるからです。DXを実現するためには、1人の人間が100個の課題を解決するのではなく、10人が10個の課題をそれぞれ解決できる組織にしていく必要があります。そうでなければ、世の中が変化するスピードについていけないからです。

現場を巻き込むために有効なのは、各店舗、各チームから代表者を立て、課題と背景を共有することです。具体的にやることを指示するのではなく、課題と背景を共有し「あなたはどうするべきだと考えるか」と問いを投げかけます。答えではなく、問いを投げかけることによって、組織に当事者意識が芽生えていきます。

2つ目に重要な点は「情報をオープンにする」ということです。人間が何かを考えるためには情報が必要です。ベストセラーとなったユヴァル・ノア・ハラリ氏による「サピエンス全史」によれば、我々の祖先である「ホモ・サピエンス」は、仲間内で伝達された情報を元にした仮説作りの能力によって、生存競争に勝ち抜いたという事実が示されています。社長や経営陣が意思決定やアイデアを出すことができるのは、単に情報をたくさん持っているから、ということが往々にしてあり得るのです。

また情報をオープンにするためには、そもそもオープンにするだけの情報が蓄えられていく仕組みが必要です。毎日、毎月、毎年の会員登録数、反響数、見学の申込数、実際の見学数、購入や入居の申込数など、各種の数字をなるべく労力をかけずに蓄積し、グラフなどの形で見える化する必要があります。

DXは魔法の杖ではありませんが、DXを推進することで「何が起きているのか」「やったことが正解なのか」が見えやすくなります。

次回は「毎月の売上をコントロールできる会社」についてお話します。

社員がアイデアを出しやすくするためには、情報を蓄積し、オープンにすることが必要
次世代コミュニケーションPropoCloud

針山 昌幸

株式会社Housmart
代表取締役

針山 昌幸

大手不動産会社、楽天株式会社を経て、株式会社Housmartを設立。テクノロジーとデザイン、不動産の専門知識を融合させ、売買仲介向けの顧客自動追客サービス「プロポクラウド」を展開する。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』(実業之日本社)など。