Vol.30 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編⑥~
宅建業者が通常行うべき調査業務とは?


宅建業者は、ひとたび不動産の紛争に巻き込まれると、何らかの形で重要事項の調査および説明義務に疑いを向けられます。明らかな法令違反を除いて、「その時の仕事の仕方は、宅建業者が通常行うべき業務だったか」ということが、紛争の争点とされます。

宅建業者が通常行うべき調査の種類とは

宅地建物取引業法第35条は、宅建業者は、「宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、説明をさせなければならない」というように、「少なくとも」という表現により、最低限の説明すべき下限が示されています。つまり、下限があって上限がないとも言えます。それでは、「宅建業者が行っている通常の不動産業務」とはなんでしょうか?

宅建業者が不動産調査を行う主な目的とは、「土地建物の数量や品質性能」の調査であり、「契約目的や契約内容に支障がある事項」の調査ということができます。

不動産調査には、次のような調査の種類があります。

  • ①「数量や品質性能を明らかにするための現地調査」
  • ②「契約内容に影響する数量、権利関係の調査」および 
  • ③「契約内容に影響する法令関係調査」
  • ④「品質性能に影響する設備調査」
  • ⑤「契約内容に影響する書類照合調査」 など

これらの情報をすべて明らかにして初めて、“不動産という商品”としての取引対象物件となります。

仲介業者は、通常の不動産調査義務はあるが、検査義務まではない

「品質性能を明らかにするための現地調査」では、こんな事例がありました。

平成2年11月ころに売主が総額7千万円以上をかけて建築した注文住宅で、平成10年に、買主が代金3,380万円で売買契約を締結し、本物件引き渡し後、建物に居住し始めた際の事件です。

「入居1週間後、早朝、1階リビングルームでコウモリを発見し、害虫駆除業者に依頼して床下・天井裏等を点検したところ、屋根裏におびただしいコウモリの糞が堆積しており、多数のコウモリが屋根裏に棲息していることが判明した」というもの。「コウモリの糞尿で汚損した天井ボード、断熱材等を取り替え、コウモリを駆除するためにコウモリの侵入経路と思料される軒下通風口を塞ぎ、その代わりの新たな通風口を6カ所設置し、それに要した費用合計約113万円について損害賠償責任」を買主が売主および仲介業者に対して請求する訴訟となりました。

判決では、売主の責任を認めたものの、大手不動産会社のフランチャイズである買主側および売主側の仲介業者の責任については、「不動産仲介業者が、業務上、取引関係者に対して一般的注意義務を負うとしても、一見明らかにこれを疑うべき特段の事情のない限り、居住の妨げとなるほど多数のコウモリが棲息しているかどうかを確認するために、天井裏等まで調査すべきとはいえない」(神戸地裁甲斐野正行裁判官・平成11年7月30日)とし、「通常の不動産調査義務はあるものの、検査義務まではない」としました。このことは、宅建業者の通常の業務範囲を考える上で、非常に重要でもあり、大切なことです。

事例の経緯

事例の経緯の図

誰にでもできる建物外壁・基礎の亀裂のチェック

宅建業者は、現地での検査義務を負いませんが、目視による調査で、建物の「外壁の亀裂、基礎の亀裂」などを発見した場合、0.5㎜のシャープペンシルの芯を20㎜程押し出して、亀裂があった個所に差し入れ、楽に入るようなら、その建物は「構造的な瑕疵がある建物」ということになります。契約の際は、「本件の建物の価格はゼロ円。古家付きの土地売買契約」として取引をすることが比較的に安全です。検査義務はなくとも、このような技術を知っているだけでも、トラブルを軽減できる場合があります。

宅地の三大性能の現況調査ポイント

宅地三大性能の調査の重要性は、2021年7月号で述べましたが、品質性能に影響する重要事項ですので、具体的な事象を述べます。

  • (1)土壌汚染の現況調査:工場跡地の形跡、養鶏場跡地、牛舎跡地、敷地の部分的な草枯れ、部分的な盛土個所、土壌の変色、オイルのシミ、サイロの跡地などは、要警戒土地として、土壌汚染の可能性を告知します。
  • (2)地盤性能の現況調査:地盤沈下を示すブロック塀の横一線のシミ、敷地周辺の道路地盤のわだちや変形などがあるときは、軟弱地盤の可能性を告知します。
  • (3)地中障害物の有無の現況調査:個別浄化槽の残置、古井戸の残置、工業用浄化槽の残置、地下重油タンクの残置、地下貯水槽の残置などは、地中障害物の可能性として告知します。

これらの宅地三大性能の現況調査は、契約不適合の存在の可能性の有無の調査ですが、専門検査に至る前の重要なチェックポイントです。

ポイント

写真のように、建物の基礎に大きな亀裂がある場合は、「構造的な瑕疵がある建物」とされる可能性が高いため、契約の際に、「建物価格はゼロ円です。本件契約は、古家付き土地売買契約です」と、特約に明記した取引方法が比較的に安全です。

建物の基礎にある大きな亀裂

津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。