Vol.37 宅建業者が売主の場合の契約不適合責任について(2)
今月号では、売買不動産において、不具合を把握している箇所・設備の契約不適合に関する容認事項について説明します。
消費者が買主の場合に、売主が負うべき契約不適合責任の範囲・期間の概要は次のとおりです。

売主が宅建業者の場合は、土地・建物・設備のいずれも免責することはできず、築数十年経過した建物であっても、売買対象なら契約不適合責任を負わざるを得ません。
そこで、前回(11月号)で、契約不適合に関するトラブル防止への対応として
①「設備表等での不具合箇所の記載と買主への交付」
②「引渡し直前での買主立ち合いでの設備の稼働確認の重要性」を説明しました。今回は、これらの内容を容認事項として契約書に記載する場合に、留意すべき点を、裁判例で説明します。
トラブル事例から考えよう
〈事例〉
中古の賃貸住宅の買主が、売主の宅建業者に対し、「赤水の発生や調査会社の報告書によれば、同建物の給水管が腐食していることは明らかで瑕疵にあたる」などと主張し、293万円余の損害賠償を求めた
(東京地裁 令和4年1月13日判決 ウエストロー・ジャパン RETIO129-130)
事案の概要
平成29年1月に2階建て賃貸アパート(平成元年築 総戸数4戸)を購入した宅建業者は、平成29年3月、買主(個人)との間で、売買代金2,550万円で、以下の特約条項を付して売買契約を締結し引き渡した。
〇本件建物に隠れた瑕疵がある場合、売主は引渡し後2年間に限り瑕疵担保責任を負う。
〇本件建物が中古住宅であるため、「器具・設備・建具・配管(赤水等を含む)につき、本体・内外装および設備等は、建築年数による経年変化・劣化および使用に伴う性能低下、傷、汚れ等がある。これらにつき、支障・不具合があっても売主はこれらの瑕疵担保責任を負わない事を買主は了承する。
なお、売主(宅建業者)は、買主より本件建物の賃貸管理業務を受託し、その業務の一部を管理会社に再委託した。
平成30年6月、売主は管理会社より、「201号室の入居者から『赤水が出る・排水の臭いがひどい、ただし、赤水は朝にしか出ない』と連絡があった」との話を受けたため、赤水の取水を依頼した。管理会社から「同年5月に201号室を見たが、排水の臭いはあまり感じられなかった」との説明と、入居者が採取した赤水入りペットボトルの写真画像が添付されたメールを受信した。令和元年5月、売主は買主に、201号室から出た赤水として、本件画像をメールで送信した。
令和2年4月、買主は売主に「赤水の発生や、売主が依頼した調査会社の報告書によれば、本件建物の給水管が腐食していることは明らかで瑕疵にあたる」などと主張し、293万円余の損害賠償を求めた。

< 裁判所の判示> 買主の請求を棄却
裁判所は、次のように判示し、買主の請求を棄却した。
(1)売買目的物における「瑕疵」の有無、すなわち当該目的物が通常備えるべき品質・性能を欠いているか否かについては、契約当事者の合意、契約の趣旨等も踏まえて検討すべきである。本件建物は平成元年築の中古物件であり、契約書等においても、赤水の可能性を含め、給水設備の経年劣化による性能低下等が明記され、買主もその事情を認識して買い受けたことなどの事情を考慮すると本件建物の給水管が相当程度に腐食し、頻繁に赤水が出るなど、賃貸物件としての利用に相当の支障が出るような場合に、「瑕疵」にあたると解するのが相当である。
(2)報告書の調査は、給水管の内部検査ではなく、201号室での短時間の目視検査であることから、一定の赤さびが含まれていたとしても、給水管が相当程度腐食しているなどと即断できない。また、201号室以外の入居者から赤水の存在を指摘された証拠はなく、同室の入居者からも恒常的に生活に支障が出ていたとは述べていないこと等から、201号室を含む本件建物内の給水管に、賃貸物件の利用に相当の支障があるとまでは認め難く、買主の主張は採用できない。
(3)本件特約条項は、一般に経年劣化等の理由を挙げつつ、「瑕疵」にあたり得る内容を例示列挙しているものの、結局、その支障、不具合等について、売主が民法570条所定の瑕疵担保責任を一切負担しないことを内容とするものと解される。
しかし、仮に給水管の不具合等が経年劣化によるものであっても、賃貸物件としての利用に相当の支障が生ずる程度に腐食等している場合には「瑕疵」にあたるのであるから、これを含めて一切の免責の対象とすることを含意するのであれば、民法570条に規定する内容により買主に不利となるものとして、宅建業法40条1項に抵触し、同条2項により特約自体が無効となる。

まとめ
事例では、給水管の腐食の瑕疵については否認されていますが、売主宅建業者が記載した特約条項(買主が了承するという容認事項)については、宅建業法40条1項に抵触し無効とされており、買主は契約不適合の請求を、引渡しから2年間でなく、民法566条に基づき、不適合を知った時から1年以内に通知すれば請求できることとなり、売主業者は宅建業法40条により長い期間、責任を負うこととなりました。
容認事項の記載にあたっては、事例のように、例示列挙で漠然と買主が容認する内容を記載するのではなく、「どこに」または「どの設備に」、「どの程度の故障・不具合が生じているか」を、物件状況等報告書や設備表に記載し、買主に告知・交付したうえで、契約書に、それらのみの故障・不具合について、買主が了承したうえで買い受ける旨の容認事項とすることが重要と言えるでしょう。なお、経年劣化によるものであっても、売買契約の趣旨に照らし、不動産の利用に相当の支障が生じている場合は、契約不適合となる点についても留意しましょう。
一般財団法人
不動産適正取引推進機構
客員研究員
室岡 彰
一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/