法律改正等
2023.04.14

2023年4月施行の改正民法総まとめ!

改正民法のイメージ

2021(令和3)年4月に民法が改正され、2023(令和5)年4月に施行されました。一部は本誌の特集や連載で紹介しましたが、改正内容は多岐にわたるうえ、いずれも不動産業者として理解しておくべきルールです。そこで本特集では、あらためて2023年4月施行の民法改正のポイントをまとめて解説します(以下、単に条文を示すときは、民法の条文)。

相隣関係規定の見直し

1. 隣地使用権の拡大

隣地の使用については、従来から境界またはその付近における障壁・建物を築造・修繕する場面での隣地使用が認められていましたが、隣地使用権が拡大され、境界標の調査または境界に関する測量、および隣地の竹木の枝の切取りのためにも隣地を使用することができるようになりました(209条1項2号・3号)。

2. 竹木の枝の切除

隣地から竹木の根が所有地に入り込んできたときには、根を切り取ることができます。他方で、従来は竹木の枝については、所有地に入り込んでも、竹木の所有者(隣地の所有者)に切除を申し入れることができるだけで、無断で切り取ることはできませんでした(233条1項・2項)。改正では、竹木の枝についての取扱いが見直されました。自分で竹木の枝を切り取ることはできないという原則は維持しながら、例外として、①竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき、②竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき、③急迫の事情があるとき、という3つのケースでは、隣地の所有者の了解を得ずに、自ら枝を切り取ってもよいものとされました(同条1項・3項)。※本誌2022年10月号に解説を掲載。

3. ライフラインの供給設備の設置

土地の位置関係や形状によっては、隣地に設備を設置し利用しなければ、日常生活に必要な電気・ガス・水道などのライフラインの供給を受けることができない状況が生じます。改正によって「土地の所有者がほかの土地に設備を設置し、または他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス、水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができないときは、継続的給付を受けるために必要な範囲内で、ほかの土地に設備を設置し、または他人が所有する設備を使用することができる」という定めが新設されました(213条の2)。

共有制度の見直し

1. 共有者間の関係

(1)ほかの共有者に対する義務

従来、共有物を使用する一部の共有者がほかの共有者に対していかなる義務を負うのかに関しては、定めがありませんでした。改正では「別段の合意がある場合を除き、ほかの共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う」として使用の対価の償還義務が(249条2項)、「善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない」として善管注意義務が(同条3項)、それぞれ条文化されました。

(2)一部共有者が使用している場合の使用方法の変更

管理に関する事項は、持分の価格に従い、その過半数で決します(252条1項前段)。改正によってこの後に、「共有物を使用する共有者があるときも、同様とする」という条文が加えられました(同条1項後段)。共有物を使用する一部共有者がいても、持分の価格の過半数によって利用方法を変更することができることを明文化したものです。

もっとも、実際に共有物を使用する一部共有者の利益に配慮して調整を図り、共有者による変更の決定が共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その共有者の承諾を得なければならないという定めも置かれています(同条3項)。

(3)変更と管理の決定方法

各共有者は、ほかの共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができません(251条1項)。しかし、ほかの共有者への影響が小さいものについては、全員の同意が必要とは考えられません。そこで、形状または効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)は、共有者全員の承諾がなくても、共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することができるという定めが設けられました(同条1項かっこ書き)。

また、共有物の賃貸に関して、図表1の①~④の期間を超えないものであれば、管理行為の範囲内として、持分価格に従い、その過半数によって決めることができる旨の明文が置かれました(252条4項)。

図表1 管理行為となる賃貸借期間の上限

管理行為となる賃貸借期間の上限

(4)管理者の制度

共有者が第三者を管理者と定め、管理者に日常的な管理を委ねておけば、共有物の管理を円滑に行うことができます。そのため、共有物の管理者に関する条文が設けられました。管理者の選任は、管理に関する事項に含まれ(252条1項かっこ書き)、管理者は管理に関する行為(軽微変更を含む)をすることができます(同条の2第1項本文)。管理者が共有物に変更を加えることは、共有者全員の同意が必要です(同条の2第1項ただし書き)。

2. 所在等不明共有者がいる場合の措置

共有者の中に所在不明者がいる場合には、共有物の処分や変更をすることができず、また管理に重大な支障が生じます。そのため新たな仕組みを創設しました。

まず、処分に関しては、共有者がほかの共有者を知ることができず(共有者不明)、またはその所在を知ることができないとき(所在不明。共有者不明とあわせて「所在等不明」という)には、所在等不明の共有者(所在等不明共有者)の持分について、(1)所在等不明共有者以外の共有者が取得する措置(持分取得の措置。262条の2)、および(2)所在等不明共有者以外の共有者が第三者に譲渡する権限を付与する措置(持分譲渡権限付与の措置。同条の3)が認められます。

また、(3)変更に関しては、所在等不明の共有者を除く共有者の同意で共有物の変更を決めることができるとする措置が(251条2項)、さらに、管理に関しては、(4)所在等不明共有者以外の共有者、および管理に関する事項の賛否を明らかにしない共有者(賛否不明共有者)以外の共有者が、共有物の管理に関する事項を決めることができるとする措置が、それぞれ可能になっています(252条2項1号・2号)(図表2)。

図表2 所在等不明共有者等がいる場合の措置

所在等不明共有者等がいる場合の措置

3. 共有物分割請求訴訟についての判例法理の条文化

共有物の共有者はいつでも共有物の分割を請求することができます(256条1項本文)。従来、共有物分割のためのルールは民法には明文がなく、判例によって補われていました(最判昭和46.6.18判時637号38頁、最判平成8.10.31判時1592号59頁等)。

改正によって「共有者間に協議が調わないとき(協議不調)、または協議をすることができないとき(協議不能)に、裁判所に共有物の分割を請求することができる」とされたうえ(258条1項)、裁判所は「分割請求がなされた場合には、①1次的に、共有物の現物を分割する方法(現物分割)、または共有者に債務を負担させて、ほかの共有者の持分の全部または一部を取得させる方法(賠償分割)によって分割を命じる(同条2項)、②2次的に、現物分割または賠償分割をすることができないとき、または分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは競売を命じる(競売分割)」(同条3項)と定められました。

所有者不明または管理不全の土地・建物の管理命令

1. 所有者不明土地・建物管理命令

土地・建物の所有者が不明であって、適正な管理がなされていない場合には、所有者に代わる者による管理が求められます。不在者の財産管理の制度(25条1項)は、特定の土地・建物のみの管理には適していません。

そこで、所有者不明土地管理命令および所有者不明建物管理命令の制度が新設されました(264条の2第1項・同条の8第1項)。この制度は、所有者を知ることができず(所有者不明)、またはその所在を知ることができない(所有者の所在不明)場合の土地・建物について、裁判所が所有者不明土地管理人・所有者不明建物管理人(管理人)による管理を命ずる仕組みです。管理人が選任されると、管理人に土地・建物の管理をする権限が与えられ(264条の3第1項・同条の8第5項)、たとえば、隣接する擁壁の劣化・倒壊によって土砂崩れが生ずるおそれが生じていたり、隣家がいわゆるごみ屋敷であって、悪臭等により健康被害が生じていたりするような場合に、管理人が危険や弊害を取り除く措置を講じることができるようになります。なお、この制度は、マンションの専有部分および共用部分には適用されません(区分所有法6条4項)(図表3)。

図表3 所有者不明・管理不全の土地・建物の管理命令

所有者不明・管理不全の土地・建物の管理命令

2. 管理不全土地・建物管理命令

土地・建物について適正な管理がなされない状況は、所有者が明らかな場面でも生じます。改正では、所有者が不明ではないものの、所有者による管理が不適当なケースであって他人の権利・法律上の利益が侵害されているなどの場合にも、第三者による土地・建物の管理を命じ、管理不全土地管理人・管理不全建物管理人(管理人)による管理を命ずることができるようになっています(264条の10第1項・同条の14第1項)。管理人が選任されると、管理人に土地・建物の管理をする権限が認められます(同条の3第1項・同条の14第4項)。管理不全土地・建物管理命令の制度も、マンションの専有部分および共用部分には適用されません(区分所有法6条4項)(図表3)。

相続制度の見直し

1. 具体的相続分による遺産分割の時間的制限

相続発生の後、遺産分割までの間、共同相続人が相続財産を共同で所有する関係を遺産共有といいます(898条)。遺産共有は解消が想定される暫定的な関係であり、法定相続分・指定相続分に加えて、特別受益と寄与分を考慮に入れた具体的相続分に基づいて遺産分割が行われ、共同相続人に相続財産が割り振られます。もっとも、時間の経過とともに具体的相続分への配慮は困難になります。そこで、改正によって、相続開始から10年経過した後に行う遺産分割については、特別受益と寄与分の定めが適用されないものとされました(904条の3)(図表4)。

図表4 遺産分割の制約

遺産分割の制約

2. 遺産共有における共有物分割請求

従来、遺産分割の手続きを行う時期には制約はなく、かつ遺産共有については共有物分割訴訟は認められませんでした(258条の2第1項。最判昭和62.9.4判時1251号101頁)。このことが遺産が分割されないままになっている大量の土地を生み出す原因となっていました。そこで、改正においては、相続開始の時から10年を経過したときは、相続財産に属する共有物の持分についても共有物分割請求をすることができるものとされました(同条の2第2項本文)(図表4)。

3. 相続財産の管理の仕組みの整備

相続財産が適切に管理されていない場合には、第三者を管理人に指定し、管理がなされるべきですが、従来は、民法上管理人が選任される場面は限定的でした(918条2項、926条2項、940条2項)。改正では「相続が開始すれば、相続の段階にかかわらず、いつでも、家庭裁判所が相続財産管理人を選任することができる」という包括的な定めが設けられました(897条の2)。

相続土地国庫帰属法

相続財産である土地が遠隔地にあるなどの場合には、相続人は土地に関心をもちません。のみならず、望まず土地を取得した所有者には負担感だけが残るため、土地を手放したいと考える人が増加しています。そこで、相続・遺贈により取得した土地について、法務大臣に申請し、国庫に帰属させることができる法律(相続土地国庫帰属法)が制定されました(2023(令和5)年4月施行)。

もっとも、相続土地が国庫帰属にふさわしくないものについての承認申請は却下され(相続土地国庫帰属法2条3項)、通常の管理または処分をするにあたり過分の費用または労力を要する土地は、国庫帰属が承認されません(同法5条1項5号)。また、土地の国庫帰属には負担金の納付が必要です(同法10条1項)。負担金は、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して定められており、粗放的な管理で足りる原野は約20万円、市街地の宅地(200㎡)は約80万円などとなっています(相続土地国庫帰属法令4条1項)(図表5)。

※本誌2022年7月号2023年3月号に解説を掲載。

図表5 相続土地国庫帰属法

相続土地国庫帰属法

まとめ

近年、所有者不明土地が増加し続けています。土地の所有者が不明であるときには、土地の利用や管理に支障が生じ、衛生や防犯に関して弊害が生じます。今般の民法改正は、この所有者不明土地という社会問題に対する対策として立法化されたものです。

なお、所有者不明土地に対するさらなる対策として、不動産登記法も改正されて、相続登記の申請および住所等変更登記の申請が義務化され、所有不動産記録証明の制度が創設されています。相続登記の申請の義務化については2024(令和6)年4月に、住所等変更登記の申請の義務化と所有不動産記録証明の制度については、2026(令和8)年4月までにそれぞれ施行されることになっています(図表6)。

図表6 不動産登記法の改正

不動産登記法の改正
所有不動産記録証明制度:自分自身や被相続人が所有権の登記名義人となっている不動産の一覧表
(登記記録に記録されている事項を証明した書面。所有不動産記録証明書)の交付請求を認める制度

渡辺 晋

弁護士 山下・渡辺法律事務所

渡辺 晋